
幸野 央枝(ゆきの ひさえ / AIR AGENCY 所属)
■ インタビュー
── この作品は、第二次大戦中にイタリア北部の山村で実際に起きた、ナチス親衛隊による村民の虐殺を描いています。
口のきけない主人公の 8 歳の少女、マルティーナの目線で物語が進みますが、この難しい役にキャスティングされた時の気持ちを聞かせてください。
幸野:本当に光栄なことと喜びでいっぱいになった直後、不安と緊張、そしてやり遂げなければという思いが一気に押し寄せました。
キャスティングしていただいてから収録まで約 1 ヶ月半ありましたが、落ち着かない日々の中で、懸命に役と向き合えるよう努力しました。
── この作品の世界観とテーマをどのように捉えましたか?
幸野:作品の前半では山村の人々の生活が丁寧に描かれている分、中盤から後半にかけての「進軍に巻き込まれた人々」の悲惨さが印象に残ります。
そこから生まれるものは何もない、奪い奪われて、ただ失われていくだけ ── それが戦争だと。
裕福な暮らしでなくてもただ平和に暮らしていきたかった人たちが、無慈悲に殺されていく光景を通し、戦争というものがいかに惨くて悲しいものかということを、観る人に強く訴えかけている作品だと思いました。
── 人類の歴史は戦争の繰り返しです。今もまさに世界中の国々が緊張下にあります。
この作品の持つ意味をどのように解釈しましたか?
幸野:今回マルティーナを演じるにあたって、理解を深めるために「マルツァボットの虐殺」について調べるところから始めたのですが、記事や慰霊碑の写真を見て本当に胸が締め付けられる思いでした。
作中でもショッキングなシーンが度々映りますが、それらがすべてフィクションなどではなく、実際に起こった出来事だということ、そして、どうかこの出来事から目を背けないでほしいという思いが作品から強く伝わってきます。
現実に止まない世界での戦争や紛争に対する警鐘だと感じました。
── 邦題が「沈黙の歌」に決まりました。このタイトルから何を感じましたか?
幸野:マルティーナは口がきけない ── 笑い声も泣き声もあげることができません。過去に自分の腕の中で弟を亡くし、その時のショックで声を失いました。
そして今度は、戦争によって家族や日常を奪われてしまいます。
そんな凄惨な経験をした 8 歳の少女が奇跡的に生き残って、生まれたばかりの二人目の弟を抱きながら、静寂の中で声を取り戻す ── その瞬間に彼女も新しい生を授かったというような……
一縷の希望や望みが込められているのではないかと感じました。
── 最も心に残ったシーンを教えてください。
幸野:心に残ったというか、特に衝撃だったのが、マルティーナの叔父さんがドイツ兵の一人に穴を掘らせ、後ろから撃つシーンです。それを彼女が物陰から見ていてとてもショックを受けるという。
このドイツ兵は作中ではとても優しい人に描かれていました。殺し殺される……これが戦争なのだということを突きつけられた思いです。
このシーンを観るたびに本当に心が痛みます。
── 最も難しかったシーンを教えてください。
幸野:息だけでずっと感情を表現しなければならないことが本当に大変でしたが、それにも増して苦労したのは歌う場面です。
今まで言葉を失っていた彼女が虚空を見つめ、何を感じて口ずさんだのか……ふつうにすっと歌えるものではないので、それを観ている方に違和感のないよう伝えることが大変難しかったです。
── 印象に残ったキャラクターは?
幸野:ミケーレ、ミルコを始めとした子供たちです。
戦争の残酷さを訴える中で、併せて子供の残酷さも見えてしまうのがこの作品の重要な点ではないかと。
放った一言や行動が、子供たちにとってはただの悪戯や揶揄で、明日には忘れてしまう何でもないことかもしれないんですが、大人になった時にそれが大ごとになる可能性も否定できない。最悪、人を殺すかもしれない、戦争につながるかもしれないという恐怖を感じさせる演出で、子供の無邪気さというのは、時には恐ろしいものだと。
子供だからこその残酷さを見せつけられた思いです。
── 今後はどのようなキャラクターに挑戦したいですか?
幸野:今回、ありがたいことに 8 歳の少女を演じさせていただきましたので、次はぜひ少年役に挑戦したいと思っています。
少しずつですが、役の幅が広がってきていることを自分でも感じているので、自分と異なる性別で可能な年齢の役を演じる機会があったらいいなと思います。
── 最後に、この作品をまだ観ていない方々にひと言お願いします。
幸野:私たちにとって戦争というものは、日常生活を送っている中でつい目を背けてしまいがちになる問題かもしれません。
しかし、それは遠い国で起こっていることではないと、決して私たちに無関係ではないと、今この瞬間も他国で戦争が続いているという現実を忘れてはならないと、この作品は訴えかけてきます。
いつか自分たちの身にも同じことが起こる可能性は 0 パーセントではない。そして、過去の歴史で繰り返されてきた戦争が、今なお繰り返されている現実をどう受け止めるか、と迫ってきます。
その現実を少しでも、作品を通じて私たちのお芝居で伝えることができれば幸いです。
この作品が一人でも多くの方に届くことを心より願っております。
ありがとうございました。
■ 沈黙の歌 (2009年 イタリア) 作品データ
■ 監督 ジョルジョ・ディリッティ
■ 出演
マルティーナ:グレタ・ズッケーリ・モンタナーリ
アルマンド:クラウディオ・カサディオ
ベニャミーナ:アルバ・ロルヴァケル
■ ストーリー
第二次世界大戦後期の 1943 年。休戦協定に調印したイタリアは連合軍と、ナチス・ドイツ及びファシスト党とによって南北に分断されていた。
イタリア北部の都市ボローニャにほど近いモンテ・ソーレの農村に住む 8 歳の少女マルティーナは、その地方の多くの人々と同じく、生活に困窮する農民家族の一人っ子だ。彼女は何年も前に、生まれたばかりの弟を亡くしており、それ以来口をきいていない。
12月、マルティーナの母レーナは再び妊娠し、一家は新しい家族の誕生を心待ちにするようになる。
だが、ナチス・ドイツによる占領軍と地元パルチザンとの衝突もまた、日を追うごとに強まっていく。
1944 年 9 月、レーナはついに赤子を出産する。
ほどなく、親衛隊はその地域における未曾有の掃討戦を開始。これは「マルツァボットの虐殺」として歴史に名を残すことになる…
■ 日本語吹替版キャスト
マルティーナ 幸野 央枝 /
アルマンド 近衛 頼忠 /
ベニャミーナ 林 あゆり /
レーナ 桜井 春香 /
ヴィットリア 紅林 伽奈 /
ダンテ/ブガメッリ 森川 直樹 /
フォルナジーニ神父/ドメニコ 犬丸 義貴 /
ウバルド神父 小出 明 /
ディーノ 吉岡 翔悟 /
マリア さきとう 薫 /
アニタ先生 南澤 まお /
アントニエッタ 武田 恵瑠々 /
ミケーレ 安達 菜都 /
ミルコ 朝日 まゆ /
ジャンニ/行商人 天野 冱惠 /
ルーポ 石原 雅人 /
ペペ 北口 聖 /
クララ 岩元 絵美 /
グリエルモ 雪村 真以 /
クレリア 青柳 佑 /
アントニオ 吉村 伊織 /
フォルナジーニ神父の妹 岡 ありさ /
フォルナジーニ神父の叔母 乙羽 美輝 /
パルチザン 弦谷 直
駐屯ドイツ軍将校 近衛 頼忠 /
駐屯ドイツ軍下士官 小出 明・石原 雅人
ナチス親衛隊軍医 犬丸 義貴 /
ナチス親衛隊将校 石原 雅人・小出 明 /
ナチス親衛隊下士官 弦谷 直・天野 冱惠 /
ナチス親衛隊兵士 天野 冱惠・森川 直樹・犬丸 義貴・北口 聖・近衛 頼忠・吉岡 翔悟
■ 予告編 ( 日本語字幕 )
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